第4章

絵里視点

見えない鎖に引かれるように、私は家へと戻ってきた。

(犯罪現場にお帰り、和也? ノスタルジックな気分にでもなった?)

隣家の渡辺さんの窓のカーテンが、ぴくりと動いた。ものの数秒で、彼女は玄関先に姿を現す。グレーの髪は完璧にカールされ、顔には同情的な笑みが貼り付いていた。

「和也さん、もし何か必要なものがあったら……」軍人の妻たちが完璧に体得した、あの独特の気遣いを声に滲ませて、彼女は呼びかける。

「大丈夫です」和也は必要以上に強く車のドアを閉めた。「あいつの荷物をまとめに来ただけなんで」

(「あいつの荷物」、ね。私たちの三年間は、あんたが段ボールに詰めるだけの「荷物...

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